きゅうりくんをいじめるな

(この記事はどらねこ日誌に2009年7月8日掲載したものを加筆修正したものです)


■キュウリの酵素がビタミンCを壊すって本当?
日本テレビ系列で放送されている世界一受けたい授業というバラエティー番組があります。
どら妻はこの番組の事が好きでよく見ているのですが、どらねこはテレビを見ることがさほど好きでは無いので、彼女が視聴している間は大抵、ゲームかパソコンをやっていたりします。とはいうものの、結構気になってしまうもので「わ〜すっごぉ〜い。なになになになに!!」という感じで大騒ぎしたときや、食べ物の話題が出たときには耳がダンボになってしまったり・・・。

そんな感じで、いつものようにパソコンに向かっていたところ、テレビから気になるセリフが流れてきました。パソコンを中断し、テレビ画面を見ると『胡瓜と一緒に食べない方が良い野菜は』というような出題がされていました。
その後、回答とその理由が紹介されておりましたが、簡単にいうとキュウリに含まれるアスコルビナーゼ(ビタミンCを分解する酵素)でトマトさんのビタミンCが破壊されてしまうから、というものでした。そんな事があるのかしら・・・とその場は流したどらねこでした。いつもだったらそのまま終わるところなのですが、職場でその事がちょっと話題になって、ネット検索すると、結構この話題が引っ掛かってきました。

いやぁ、結構気にしている人が多いモノですね。うん、でもコレって一般の方がそんなに気にする必要のある問題なのかしら? そんな疑問もあります。

とはいえ、当該情報を考える前に番組で語られた情報について確認をしてみようと思います。途中から見ただけなので、番組ウェブサイトにバックナンバーがあるので、それを参考*1にします。


■番組ウェブサイトで検証

7月4日放送分:恵泉女学園大学園芸文化研究所准教授の藤田智先生の授業より



園芸の先生なのですね。

では、件の話題を確認してみます。

ふむふむ、なるほど。サラダで一緒に食べる場合に気をつけましょうということなのですね。


■情報を整理してみる
まずはアスコルビナーゼがどういうものなのかどらねこなりに説明してみます。

アスコルビナーゼ
アスコルビナーゼはビタミンC(アスコルビン酸)を酸化する酵素で、正式にはアスコルビン酸オキシダーゼと呼ばれるものです。番組の説明では『破壊』となっておりますが、酸化させ、デヒドロアスコルビン酸というものを作り出す酵素です。

【それはどこにあるどんなものなの?】
キュウリや人参、かぼちゃなどに多く含まれています。普段は細胞の中に貯蔵されていて、調理作業などで細胞が壊れたときに外にでてきます。酸素のある状態で、ビタミンCをデヒドロアスコルビン酸へと変化させる酵素です。
比較的知られているのが、大根おろしに人参おろしを混ぜてしまうと人参中の酵素でビタミンCが反応してしまうというもので、管理栄養士・栄養士養成課程などの食品学実験などではお馴染みだったりします。


■どらねこの疑問
さて、ここまで見てきて一つの疑問がわき上がってきました。こうした酵素は細胞が壊れると外に出て反応をするようになるモノなのですが、野菜を切った場合に比べ、野菜をすりおろした場合により、酵素が働くんですね。すりおろすと、多くの細胞が壊され、酵素が外に飛び出してきて酸素に触れる事で反応がどんどん進んでしまうのですね。だからキュウリもおろしたのであれば酵素反応はどんどん進んでしまう事でしょう。これには違和感がありません。

しかし番組の説明する状況であれば、サラダですから、キュウリは輪切りか千切りにしているものと予想されます。そしてトマトはクシ型に切ることが多いのではないでしょうか。
この場合、トマトから流れ出た汁気やトマト表面のビタミンCでは反応が進む事は予想できますが、クシ型に切ったトマトの中にまでキュウリの酵素がしみこむものでしょうか?そのあたりがとても疑問に感じます。
5訂の食品標準成分表によりますと、食品 100 g当たりのビタミンC含量はトマトで15 mgキュウリで14 mgとされております。ではトマトとキュウリをサラダにした場合、このうちどれだけのビタミンCを損耗するのでしょうか。もしかしたらキュウリを加熱するよりもビタミンCは失われないかも知れません。


■調べてみよう
キュウリとトマトを合わせた料理によるビタミンCの変化についての実験結果は見つけられませんでしたが、参考になりそうなblogを発見いたしました。いつだって他の人ダヨリそれがどらねこです。

野菜に関する怪情報を探る
http://blog.goo.ne.jp/hidekihorie/m/200710

【キュウリはサラダにしてはダメ?】より引用
 インターネットの世界では、「キュウリはサラダにすると、アスコルビナーゼが働いてビタミンCがなくなってしまう。」という迷信があるようです。
 個人的には、某メーカーの飲料を飲めば安価に多量のビタミンCを摂取できるので、ビタミンCがどうなろうと、その人がおいしいと思う食べ方をすれば気にするほどの問題ではないと考えます。
 日本施設園芸協会編「野菜と健康の科学」57ページをご覧ください。ここではキュウリではなくニンジンの「アスコルビナーゼ」について書かれていますが、ニンジンをキュウリに置き換えても、基本的には変わらないでしょう。
 ダイコンおろしだけでは30分程度放置してもビタミンCはあまり減りません。ところが、ニンジンも加えたもみじおろしでは、ビタミンCが急激に失われています(図2-13)。ニンジン由来のアスコルビン酸酸化酵素が、ダイコンエキス中のビタミンCに作用して、ビタミンCを分解したものといえます。ところが、千切りのダイコンとニンジンでは、ビタミンCは減らないと書かれています。

「迷信です」ですって、とても格好いいですね。
キュウリの方が組織が柔らかいですので、人参よりも反応は進んでも不思議はなさそうですが、それでもおろしのようには酵素が働かないことは予想がつきます。条件の違う実験結果をそのまま当てはめてしまうことはとても危うい事なのだと思います。

キュウリとトマトの他にも番組内で、ナスときくらげで血液サラサラ的な事も言っていた模様ですが、○○を食べて健康になるみたいな番組作りは感心できません。

キュウリとトマトのサラダって美味しいじゃないですか。パリパリの美味しいキュウリにほどよい酸味と甘みのあるトマトの汁が口のなかに広がって、とっても幸せな気持ちになります。栄養を気にすることはとても大事ですが、自分にとって本当に気をつけなければならないような問題であるのか、そうした視点も大事だとどらねこは思います。気にしなくて良いことで、楽しみが一つ失われてしまうというのは勿体ないですからね。

・・・と、ここまで書いておいてそもそも本当に破壊されるの?という前提自体にも疑問があったりします。次の項目はその辺りを検証してみます。



■本当に壊れるの?

どらねこ:「やあモニョ子さん、お姉さんは元気?あっちの連載が滞っているので心配しているのだけど」

モニョ子::「どらねこさん、久しぶりです。大丈夫ですよ、元気すぎてサンドバックを突き破っちゃうぐらいです。ところでこんな感じの野菜の食べ合わせってよくききますけど、あんまり気にしなくてよいという事なんでしょうか?」

ど:「う〜ん、少なくとも自分は全く気にしてないですよ。美味しさの方が大事だと思ってるからね」

モ:「でもほら、天ぷらとスイカなどちょっと気になります」


ど:「実際に二つが合わさると有害な成分ができるとかそんな話はないから、食べ過ぎに気をつけると事と思い込んで具合が悪くならないように軽い気持ちで入ればいいんじゃないかな」

モ:「やっぱりそうなんですね。でも、もしかしたらと思うとなんとなく敬遠しちゃいます」


ど:「うん、人間ってそんなものだよ。ネコだけど」

モ:「話はもどりますけど、トマトとキュウリのお話し、サラダじゃなくて和え物にする場合は気にした方が良いのかなぁと思ったのですけど、どうでしょう?」


ど:「そのことなんだけど、実は本当にビタミンCが破壊されているのかどうかすら疑いを持っているんですよ」

モ:「ええっ、それってどういう事ですか?いきなりのちゃぶ台返しはどうかと思います!」


ど:「いやぁ、ゴメンゴメン。ちょっとややこしい話になるので上ではあまり触れなかったのだけど、ビタミンCを破壊という表現について考えてみたいモフ」

モ:「表現って?」


ど:アスコルビン酸オキシダーゼはアスコルビン酸(ビタミンC)をデヒドロアスコルビン酸へ酸化させる酵素なのですよね」

モ:「本文中で、破壊ではなく酸化をさせる酵素です、と説明してますね」

ど:「実は、5訂日本食品標準成分表には次のように書かれていモフ」

【ビタミンC】
 ビタミンCは、生体内の各種の物質代謝、特に酸化還元反応に関与するとともに、コラーゲンの生成と保持作用を有する。さらに、チロシン代謝と関連したカテコールアミンの生成や脂質代謝にも密接に関与している。欠乏により壊血病等が起こることが知られている。食品中のビタミンCは、L‐アスコルビン酸(還元型)とL‐デヒドロアスコルビン酸(酸化型)として存在する。その効力値については、科学技術庁資源調査会からの問い合わせに対する日本ビタミン学会ビタミンC研究委員会の見解(昭和51年2月)に基づき同等とみなされるので、成分値は両者の合計で示した。

モ:「えっ? 酸化してできたでヒドロアスコルビン酸もビタミンC効力が同様にあるのですか! だったらどうして破壊されたなんていうんでしょう?」


ど:「うん、実はそうなんだ。だから酵素で食品中のビタミンCが酸化したとしても、それを破壊というのは疑問なのですよね。だって体内で還元されビタミンCとして利用されるのだから。」

モ:「もしかしてデヒドロアスコルビン酸アスコルビン酸に比べて分解しやすい可能性があるとか・・・」


ど:「実はそのようです。生化学や食品学の本を見ても、加水分解されやすく、中性条件では2,3-ジケトグロン酸というビタミンC効力を持たない物質に変化するとあります。で、これは不可逆反応だからビタミンCに戻らないのね」

モ:「もしかするとこの事をわかりやすく説明するために破壊と呼んだのでしょうか。難しい話だとなかなか伝わらないですし」


ど:「うん、確かに難しい話なのですけど、サラダとして食べるのだったらお酢をかけるし、トマトなら酸性だからほとんど損失しないと思うんだよね。だからそういう意味でも正確じゃ無いと思うの」

モ:「じゃあ、キュウリおろしをそのまま放置したり、きゅうりの絞り汁を加熱したりする他はきにしなくてよいのですね?」


ど:「うん、どらねこもそう思うヨ」

モ:「ビタミンCが壊れる事を心配しないで、サラダにキュウリを入れた方がビタミンCが多く摂れるというわけなんですね。よかった〜、お姉さんにもおしえてあげようっと」


ど:「うん、食べ合わせなんてあんまり気にしなくて良いんですよ。それよりもビールが太っちゃう食べ物に合いすぎる事の方が個人的には大問題なのです」

モ:「どらねこさん、最近おなかモフモフしてきましたものね」

*1:なので、生でしっかり見ていたわけではありませんのでウェブサイトを参考にした記事であることをご了解願います