繰り返される不幸

先日、ちょこっと立ち寄った本屋にはスティーブ・ジョブズの伝記が山高く重ねられていました。そのとなりには、ちきりんの本があって、あーどらねこも一度くらいは本を出したいなぁ、などとどうでも良いことを思ったものでした。
■知ってる?
一緒にいた妻は「もったいないよねぇ、あんなに若くて。」と、聞いてきたのでどらねこは「うん、どうして亡くなったか知ってる?」と、尋ねてみました。すると「がんで亡くなったのよね、どうして手術しなかったのかなぁ」そうつぶやきました。日本では不適切な代替療法に頼っていた経緯があまり知られていないような印象ですが、そのあたりはどうなんでしょうね?
■どうして?
どらねこは、ネットでの情報から、ジョブズが『がん』であったこと、手術を受けなかったこと、それと幾つかの食事療法を試していた事を知っておりました。そして、どうやらその一つがこのブログでたびたび採り上げている、『マクロビオティック』らしい事を他の方から教えてもらいました。その一つめがコレです。

ジョブズは早期手術で命が助かったのに拒否した。なぜ?(動画あり) : ギズモード・ジャパン

ジョブズはすい臓がんの中でも完治可能な神経内分泌腫瘍(NET)だった。早期手術で大体の人は助かるのに何故9ヶ月も受けなかったんだろう?」
ジョブズの死後、ハーバード大医学部研究員のラムジー・アムリさんがQuoraに疑問を投げかけましたが、ジョブズ自伝本著者ウォルター・アイザックソンCBS放送「60ミニッツ」のインタビューでその疑問に答えました。

アイザクソン:診断の結果、すい臓がんの5%に相当する、進行の緩やかなタイプのもので、治せる、とみんな大喜びしたのに、スティーブ・ジョブズはすぐには手術を受けないわけですね。食餌療法で治そうとしたり、スピリチュアリストに会いに行ったり、マクロバイオティックに治す方法をあれこれ試したりするばかりで手術はどうしても受けない。

いくつかの代替療法の中にマクロバイオティックマクロビオティック)の名前が出てきております。
この件はCNNのニュースでも同様に伝えられておりました。

ジョブズ氏「死後の生を信じたい」、迫る死期が製品開発の原動力 CNN.co.jp

(CNN) 5日に死去した米アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏は、2004年に膵臓(すいぞう)がんと診断された後も医師の勧めに反して手術の予定を9カ月先延ばしし、マクロビオティックの食事療法で治療しようとしたが、後にそのことを後悔していたという。ジョブズ氏の伝記を執筆したウォルター・アイザクソン氏が23日放送の米CBSテレビの番組で明らかにした。
こちらは、本人もこの件を後悔していたと書かれております。

この件がもし本当であるならば、このような事を二度と繰り返してはならないと、多くの方が願ったことでしょう。
起こってしまった事は取り返しがつきませんが、繰り返さないためにできる事はあると思います。しかしながら、問題をきちんと整理することなくその場だけで終わりにさせてしまえばこの件は簡単に忘れ去られ、同様の事態が引き起こされてしまうはずです。

■繰り返される
どうして上のような書き方をしたのかと謂うと、きちんと過去に学んでいれば、ジョブズの事例は防ぐことが十分に可能であったと考えられるからです。妥当性の無い食事療法が健康に大きな影響を与えた事例が過去にアメリカで起こっております。それは昭和40年の事ですが、当時の日本の新聞は次のように伝えております。

讀賣新聞東京 8(11)(通号87)1965.11 14面より
“日本式食ジ療法”とんだ騒ぎ 栄養失調で死ぬ 禅マニア婦人
禅マニアのアメリカの若い人妻が、東洋哲学の神秘さにあこがれて“長命食”と呼ばれる日本の食じ(餌)療法にこり、十一日朝、ニューヨークで極度の栄養失調のため死んでしまった。夫婦そろって日本びいき。食生活はすべて日本式というこり方だったが、女性の父親はカンカン。「こんな危険な書籍は発禁にしろ」と警察に訴え、この日の新聞、ラジオでも行き過ぎの“日本ブーム”に批判を投げかけている。

日本ブームの問題と謂うか、日本においても問題である食事療法ではあるのですが、そのように見えてしまいますよね。

死んだのはニューヨーク・グリニッチ・ビレッジに住むベス・アン・レモンさん
<中略>
とくに日本の禅研究家ジョージ・オーサワ氏の著書に熱中していたが、ベスさんの父、弁護士のサムエル・ウィーナー氏の話によると、この書籍では、“長命食”という食じ療法をくわしく説明しており「これを食すれば、船酔いから神経衰弱、精神病までなおる」とされている。その献立は、一日、生のニンジン一本、干し豆など若干、それに茶など最小限の飲み物だけで、肉類、乳製品などいっさい許されていない。

どらねこもオーサワ氏の書いた書籍を何冊も読みましたが、そのまま読めばどんな病気でもなおると書いてあるように見えます。

 夫婦はさる二月から完全にこの療法に従っていたが、ベスは体重五十八・五?からわずか二十二?に、チャールズさんんは三十六?にと、見るかげもなくやせ細ってしまった。これに驚いたベスさんの両親が、あわててニュージャージー州の実家にひき取ったが間に合わず、ベスさんは十一日朝死亡した。医者の解剖では想像外の極度の栄養失調だったという。

完全にこの療法に従っていたと謂うのは7号食*1でしょうか?

禅研究家といわれるジョージ・オーサワ氏とは、桜沢如一(ゆきかず)氏(七二)の外国向けペンネーム
<中略>
桜沢氏は、「ユーアーオールサンパク」(みんな三白眼だ=三白眼の持ち主の不幸を予想し、食じ療法による“治療”を訴えたもの)「ザ・ブック・オブ・ジャッジメント(裁判の書)=東洋医学の哲学」「ゼン・マクロバイオティック(禅と巨視的生科学)」など外人向きの思想と食事の英文書も出版している。ベスさんが読んでいたのは、このうちどれだかわからないが、菜食主義の重要性を説いた日本文の「新食養療法」(絶版)の英訳書らしい。

新食養療法だとすればこの本の英訳書を読んでいたことになります。確かにこの本の中には食べ物で病気を治す話が書かれて下ります。

どらねこはこのような食事療法が、いまでも健康によいと謂うイメージで様々なメディアで紹介されている現状にたいへん憂慮しております。そうして、不幸な出来事が忘れ去られてしまえば同じ事が繰り返されてしまうと思うのです。
本当にこれ以上の被害者を生み出さないためにも、今回の件が広く知られて欲しいと思います。皆様にも協力頂ければ幸いです。

*1:100%穀物食飲み物少々と謂うもの。マクロビサイトなどを見ると色々と都合良く解釈された説明が読める