管理栄養士のおかしな主張:その1

読売新聞の医療・介護・健康情報サイト『yomiDr.(ヨミドクター)』に次のような記事が掲載されておりました。http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=43990

(3)48時間内に食事調整
飲み過ぎ、食べ過ぎの後、気になるのはおなかの出っ張り。どうすればいいのだろうか。
「食べ過ぎたら48時間をメドに調整してください」
約5000人の食事指導をした経験のある管理栄養士の伊達友美さんはそう指摘する。「食べながらやせられる方法」を説き、女性誌などでひっぱりだこだ。
伊達さんによると、体に入った食べ物の一部は分解されてグリコーゲンと呼ばれる糖類となり、肝臓に蓄えられる。このうち必要な分はブドウ糖に分解され、エネルギー源になる。
ところが、肝臓にためられるグリコーゲンは約1食分のみ。そのまま食べ過ぎが続くと、肝臓で蓄えきれなくなり、少しずつ脂肪細胞という“貯蔵庫”に蓄えられる。
「肝臓にグリコーゲンとして蓄えられる48時間内に消費するのが大事」と伊達さん。
この間に食べる量を調整すべきだというわけだ。ではどうすればいいのか。
例えば、飲酒後、締めのラーメンを食べた翌朝は野菜ジュースのみにする。昼食の量を半分にする。そんな簡単なことでよい。

この記事を読み終わったとき、何とも謂えない気分に陥りました。その理由はというと・・・
まず、取材対象が管理栄養士の肩書きで語っているのが1つ。
もう一つは、エネルギー代謝について科学的な説明が為されているように見えるということ。
最後に、結論があまりにも短絡的すぎることです。

このような内容が専門家のアドバイスとして、大手新聞社の医療・健康情報系サイトが掲載されるのは不特定多数の読者が誤解をするおそれがあり、個人的には望ましくないと考えます。問題と考えられる点を抽出し、指摘を行いたいと思います。

■なぜ48時間?
なぜ食事を48時間以内に調整しなければならないのかがそもそもの謎です。
その理屈として挙げている、肝臓にグリコーゲン云々ですが、この記述が妥当なモノではないので、何も説明になっていないのです。では、何がおかしいのでしょうか。この説明はちょっと難しいのですが、だからこそケムにまかれてはイケナイと思います。
誤りその1:肝臓にためられるグリコーゲンは約1食分ではない
肝グリコーゲンは空腹時の血糖を維持するのに大切な貯蔵多糖ですが、肝臓に蓄えられる量は70〜100g程であり、エネルギー量としても300〜400kcal程度です。とても1食分を賄うことは出来ません。

誤りその2:グリコーゲンは十数時間の絶食で簡単に枯渇します
肝臓のグリコーゲンはエネルギー貯蔵目的と考えるよりも、絶食後まもなくの一過性の血糖供給源として蓄えられているものと考えた方が良いでしょう。グリコーゲンが無くなったあとは、たんぱく質を分解してグルコースをつくり、血糖として供給しますし、筋肉のエネルギー源には脂質が使われます。肝臓に蓄えられるグリコーゲンの上限を考える意味なんてありません。夜中食べすぎたとしても、朝食時にはきっと肝臓のグリコーゲンは満タンでは無いでしょう。

誤りその3:肝臓のグリコーゲン代謝はそんなに単純ではない
肝臓のグリコーゲンは食事だけから合成されるワケではありません。血液中のグルコースを取り込む直接経路と、筋肉や赤血球で使用されたグルコース代謝物である乳酸が肝臓に戻ってきてグリコーゲンとして合成される間接経路があります。間接経路によって肝臓グリコーゲンの半分ほどが賄われているのです。飲み過ぎ、食べすぎの影響はグリコーゲンの貯蔵で説明されるモノではないと思います。

誤りその4:痩せられれば良いというものではない
記事では管理栄養士という肩書きが前面に出ておりますが、そうであるのなら、ただ単に痩せることを目標にするのではなく、健康にも十分な配慮した発言が求められるのではないかと、同じ管理栄養士として思うのです。
飲酒後の翌朝には、確かに気持ち悪くてジュースぐらいしか飲めないような事があるかもしれません。その場合は、単なる水ではなく、ミネラルや糖質摂取も期待できる野菜ジュースを飲んでもらう意味はあると思います。ところが、この説明では、食べられる余力があるヒトでも、ジュース程度に抑える事を推奨しているように書かれております。これの何が問題なのでしょうか。
飲酒は肝臓に大きな負担をかけます。負担がかかり、傷ついた肝細胞を修復するために必要なアミノ酸たんぱく質)の補給が求められるでしょう。また、アルコール摂取や過食は脂肪肝を誘発しますが、その予防・治療にも十分なたんぱく質摂取が推奨されます。飲酒と過食の翌日に、十分なたんぱく質が供給されないのはどんなモノでしょう?

■ここまでの結論
極端な過食に極端な小食で対応を繰り返すのはとてもオススメできるものではありません。たまに羽目を外すのは人間なのだから当たり前にあることでしょう。でも、それを直ぐに取り戻そうなんて考えるのはちょっと危険だと思います。管理栄養士であるのならたんぱく質、ミネラル、水分十分に採れるややエネルギー量を控えた食事にし、運動量を増やして対応しましょう』と、呼びかけて欲しいと思うのです。




女性誌で引っ張りだこと紹介されておりますが、この方は普段どのような食事法を推奨しているのでしょうか。栄養学・生化学に対する理解が気になるところです。次エントリではそのあたりを検証してみたいとおもいます。
つづく・・・