さらばMMRワクチンと自閉症の関係性そして残されたモノ

つい先日、ネットを巡回していて次のニュースを目にしました。

47NEWS:ワクチンで自閉症はでっちあげ 英医学誌に報告
http://www.47news.jp/CN/201101/CN2011010601000353.html

【ワシントン共同】麻疹、おたふくかぜ、風疹の新3種混合(MMR)ワクチンの接種と自閉症との関連性を指摘した1998年の論文は医師のでっちあげだったとの報告を、英国のジャーナリストが英医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル電子版に5日発表した。

 ジャーナリストのブライアン・ディアー氏は今回、論文の対象となった患者の親への聞き取りや診療記録の調査を実施。接種後に自閉症の症状が出たとされる12人のうち、5人は以前から症状があり、3人は自閉症ではなかったと結論付けた。

以前から問題が指摘され、発表から12年かかりようやく昨年抹消されたWakefield氏の論文*1ですが、論文の不手際というよりも更に悪質なでっち上げであるという発表が雑誌に掲載されたというモノです。MMRワクチンと自閉症との関連性を示唆した元論文が世界中の悩める親子に与えた影響を考えると、この12年間はあまりに大きく、失われたモノを想像すると気が遠くなるほどです。このニュースが日本語で配信された意義は大きいと考えますが、国内でもワクチンと自閉症の関連性を疑うヒト達が一定数存在する事を思えば、大手新聞でも大きく採り上げて欲しいところです。

少しでも、この事が伝わるようにと考え関連する記事をはてなブックマークツイッターで周知を行ってきましたが、自分のところでも記事にしようかな、と情報収集をしておりました。しかし、英語力の乏しい私ですので苦戦していたところ、内容について詳しく言及しているブログを幾つか見つける事ができました。
このエントリでは、お勧め記事を紹介する形でWakefield氏の論文はでたらめである事を示し、微力ながらワクチンへの不審や不安を払拭する為の周知をしたいとおもいます。

■どんな報道がされているのか
報道についての状況は以下のブログに詳しく書かれております。是非こちらをご参照下さい

ベムのメモ帳:自閉症MMRワクチン原因説の論文(抹消済み)は捏造/メディアにも反省して欲しい
http://d.hatena.ne.jp/bem21st/20110110/p1

上記のブログでは以前からこの問題を追いかけており、経過なども併せて読むことが出来ます。どうぞ参考にして下さい。

■捏造の内容
さて、肝心である捏造の内容ですが、調べるのがしんどいなーと、思っていたところBMJ誌に掲載されたBrian Deer氏の報告書を邦訳して解説して下さっているブログがありました。これは本当に有り難いことです。以下にそのリンクを掲載します。

warblerの日記:予防接種で自閉症になるってホント?
http://d.hatena.ne.jp/warbler/20110111/1294727614

元の論文自体が12人の子供という十分とはいえない人数であることに加え、その解釈には半ば強引なところがある指摘する批判的な意見など多くの反響が掲載誌*2に寄せられるようなものでした。

しかし、リンク先を読んでいくとその報告内容は私が想像した以上のものでした。少しだけ抜き出すと・・・

退行性自閉症であると報告された9人の内の3人のこども達は全く自閉症を抱えていないと診断された。たった一人だけが明らかに退行性自閉症を抱えていた。
12人全ての子ども達が「以前は正常」だとされたが、5人はそれ(MMRワクチンの接種)よりも前に発達の懸念が存在していたことが記録されていた。
何人かの子ども達はMMRの日から数日の内に最初の行動上に現れる症状を経験したとされるが、(実際の)記録ではワクチンの数ヶ月後に始まったとされていた。
9つのケースでは、特に問題のない結腸の組織病理学的な結果−炎症性細胞集団での変動が無いか最小−が医大の「研究精査」の後で「非特異性結腸炎」に変わっていた。
8人の子ども達の親達がMMRを責めていると報じられたが、11家族がその病院でこの申し立てをしていた。3つの申し立ての排除−これらは全て問題の兆候が出るまでの時間が数ヶ月であった−は、発症までに14日という時間的な関連の様子を作り出すのを助けた。
両親達は、反MMR活動家を通じて(Royal Free病院に)集められ、その研究はあらかじめ計画された訴訟の為に依頼され資金を受けていた。
※赤字は引用者による

とにかく至る所にでっち上げが存在したというのです。これを見るとより分かりやすいでしょう。12人の子ども達の実際の病歴と論文に記載された病歴の比較です。(Lancetに掲載された論文と実際の病歴が異なっていたものを赤で色づけしました)

論文に記載された病歴と12人の子供の病歴を比較したもの(論文のデータからid:warbler氏が作成したものを転載させて頂きました)
作成者(注):ここで、「MMR→最初の症状」は、MMR接種後数日で最初の症状が現れたか否かについてです

なんと、全例でデータの改変が行われているというめちゃくちゃぶりです。こんな論文が切っ掛けになって色々な騒ぎが起こったというのですから泣けてきます・・・

引用元のブログ主さんはこのような感想を残しておられますが、全く同感です。

発達障害などに苦しむ子の様子を辛い思いで見守りなんとかしたいと願う親達や、子ども達を守ろうとする親達の心情を手玉にとって、あわよくば儲けようとしていた様子が、ありありと浮かび上がっています。この研究の対象にされてモルモットの様に扱われてきた子ども達も、とても気の毒です。

■この件を扱っているその他のブログなど

感染症診療の原則:ワクチンと自閉症 第二ラウンド
http://blog.goo.ne.jp/idconsult/e/6437ce6c2823b2fb3b34573bab2782b7

まぁ、こんなもんでえぇんとちゃう?:ワクチンで自閉症はでっちあげ【British Medical Journal】
http://ameblo.jp/inugamiakira/entry-10762342387.html

食品安全情報ブログ:自閉症研究がインチキでも信念は揺るがない
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20110107#p15

じゃじゃまるトンネル迷路:文献リストMMRと自閉症
http://www.synapse.ne.jp/~shinji/jyajya/oldwadai.html

特にじゃじゃまるトンネル迷路さんにある論文紹介と解説には大変お世話になりました。この場からで申し訳ありませんが、お礼と感謝の意を申し上げます。


■個人的に思う事
以下に書かれることは信頼性の高い上記記事とは独立した私の個人的見解や色々と思う事です。その点をどうぞ考慮した上で読んで頂ければと思います。

ワクチン自閉症原因説は自閉症発達障害に悩む親御さんなら一度くらいは聞いたことのあるような話かと思います。中には信憑性のある話だと考えている方もいらっしゃると思います。でも、その中身について詳しく把握している方はそんなに多くないのでは?と思う事もしばしばです。例えば、単純にワクチンの水銀が関係していると思っているヒトも居るかも知れませんし、抗原に対する過剰な免疫反応で腸に何らかの影響を及ぼし、その結果として自閉症を発症するのではないかと考えているヒト、もしかしたら何となくワクチンってキケン・・・だってそんな話を熱心な支援者が語っていたから、なんていうのもあるかも知れません。

私の理解では次のような理路でWakefield氏の主張は論文で自説を主張していると思います。

自閉症を持つヒトに胃腸症状を持つヒトが多いという仮説論文により提示この胃腸疾患の原因はMMRワクチンによるものでは?論拠の提示MMRワクチンは免疫学的異常を引きおこし、特定栄養素の吸収不全を起こすのではないか?尿中メチルマロン酸の上昇を指摘

こんな形で、自閉症と腸疾患に関連性があるという仮説をたて、その原因はというとMMRなんじゃあないか?という仮説をさらにたて、論文でその可能性を示唆したという感じ。

ちょっと回りくどいけれど、元の話はワクチン→自閉症というより、腸疾患→自閉症という話だと思います。
ワクチン自閉症話と同じく、食べ物が原因で自閉症が発症という考えの自閉症に対する代替療法は今なお盛んに喧伝されている状況です。その治療法とされるモノはサプリメントであったり特別な除去食を提示するのですが、自閉症スペクトラムにある子達には偏食傾向が強い事が知られており、深刻な栄養素欠乏にも繋がりかねない大変な問題ですので、特に除去食については危険なモノであると私は考えます
今回抹消された捏造論文は、腸疾患と自閉症の関連性を世間に疑わせる大きな切っ掛けになったものだと私は思います。カゼイングルテン除去食(オピオイド)、リーキーガット、アレルギー原因説が広まったのもこの影響が強いと考えます。本当に広く大きな影響を与えた論文です。
しかし、今回の捏造の件がそれらの根拠の乏しい代替療法に与える影響はそんなに大きくないような気もするのです。まったく別の件であるかの用に振る舞うような気がします。切り離しに掛かるような気もします。もう少し、結びつけて考えて欲しいな、という個人的な動機からこの項を書いている感じですね。

ちょっと四角く囲った部分を補足説明すると、尿中メチルマロン酸濃度の上昇というのは、ビタミンB12欠乏の指標として有用なものなのですね。腸疾患の子でこれが欠乏するというのは腸管での吸収不全が考えられる(元論文は捏造でしたが)のですが、別の理由も考えられそうなのです。実はビタミンB12というのは主に肉類に含まれており、植物性食品には入っていないので偏った食事で欠乏する可能性が高いビタミンなんです。自閉症の子には偏食が強く見られる子が多いのは前述しましたが、肉や牛乳を好まない子であれば、容易に不足してしまう事が予測されます。腸の疾患とは関係無くです。自閉症の子の特徴を知った上で、この指標を持ち出したのだとすれば、かなり悪辣な方法であると私は思います。
機能的にはなんら問題の無い子を代替指標で病気と診断し、根拠のない原因説を当てはめ、さらに根拠のない除去食へと導く事ができるからです。

■おわりに
治らないという現実と向き合うことは本当に辛いことだと思います。でも、治す事が本当に幸せに繋がる事なのでしょうか。自閉症であっても幸せに暮らせるように・・・そのような考えを持って活動されている方とネットを介して何人も知り合うことが出来ました。
誰の為?何の為?もう一度考えて欲しいと思います。

*1:Wakefield AJ, et al.Ileal-lymphoid-nodular hyperplasia, nonspecific colitis,and pervasive developmental disorder in children.Lancet351:637-641,1998.

*2:Correspondence. Autism,inflammatory bowel disease, and MMR vaccine.Lancet351:905-909,1998.