妥当性に乏しいと考える代替療法を利用せずに済んでいるワケ(後編)



妥当性に乏しいと考える代替療法を利用せずに済んでいるワケ(前編)
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20100725/1280035664
妥当性に乏しいと考える代替療法を利用せずに済んでいるワケ(中編)
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20100729/1280378345

前編、中編では私たち家族が代替療法を採り入れずに済んだ理由や背景などを書かせていただきましたが、今回はなるべく多くの方が出産育児などにまつわる妥当性の乏しい代替療法を採り入れずに済む為にはどうしたらよいのだろう、という事を自分なりに考えてみました。もちろん私個人の考えなので、この方法論自体の妥当性あるものかどうかすら怪しいところですが、その点を考慮の上お読みいただけると助かります。

代替療法の妥当性を疑えるか
はじめに妥当性に欠ける代替療法と書いているのですけど、妥当性があるのか無いのか、どういうものがキケンなのかを判断すること、それがとても難しいことなのですね。
全体を見ると、根拠のない代替療法(大金や労力を注ぎ込む様なケース)に嵌ってしまっているヒトの割合はそれほどでもないと思うんですが、それは代替療法に出会う機会が少ないからだと思うんです。それなりに健康で問題の無い生活を送っている場合、近所の医者に罹るだけで事足りるからです。
大部分の方が代替療法に嵌っていないのは、おそらく必要性が無いからであり、妥当でないからという理由で採り入れないのではないのですね。だからもし、せっぱ詰まった状況にあってなんらかの助けが必要な時に根拠のない代替療法が目の前に現れた場合、全体で見た場合の嵌っているヒトの割合から比べると高い割合でその説明に納得してしまうヒトが出現すると思うのです。(ようするに、代替療法利用者の割合が全体では100人に3人であったとしても、治る見込みの薄い病気に罹ったヒトが代替療法を利用する割合は100人のウチ40人ぐらいという様な意味です)

■予備知識が必要
せっぱ詰まった状況では困難なのだとしたら、そうではない状況で判断ができると良いのですが、その為に必要な援助はどのようなものが考えられるのでしょう。自分なりに考えてみました。
【母親教室・父親教室での周知】
母子健康手帳は様式が決まっており、説明も簡潔なものが求められます。それに比べると市町村保健センター等での母親(両親)教室ではある程度細やかな説明を参加者の反応を見ながら行うことが可能です。
予防接種やケイツーシロップの予防的投与は他のものでは代替できないことを説明しておいて欲しいと思います。他にも先天的な発達障害を持つ子が生まれた場合、まずどのような対応をしたらよいのか、相談窓口は何処になるのか等も知らせておいて欲しいところです。想像もつかない事ではなく、現実的に起こりうる話だと認識を持っておくことが大切だと私は思います。
また、自然なお産への強い憧れが代替療法を指向する入り口になっている事を過去記事では指摘しましたが、これも母親(両親)教室で予備知識を与えることである程度防げるのでは無いかと思います。出産は危険が伴うものであるという認識は誰もが持っていると思いますが、多くは漠然とした不安だと思うのです。過去のデータやどうして安全なお産ができるようになってきたのかを簡単にでも説明しておくことが大切だと思うのです。助産院での出産を否定するというものではなく、必要と考えられる手順を蔑ろにしていないか?というチェック項目を示してあげることで、安全な施設を選ぶ参考になると思います。
但し、市町村によっては人材不足などもあり、このような出産前教室の外部委託を行っているところもあるようです。場合によっては代替医療を採り入れる助産院の助産師が担当する事もありえますので、市町村の担当者は人材の選定と講習内容の確認を行った上で適正に実施して欲しいところです。このような要望を自治体に発信していく事も必要なのかも知れませんね。

【副読本の配布】
子どものトラブルに対する副読本を充実させるなど・・・
チャート方式の分かりやすいものがあれば良かったなぁ、というのが私の感想です。
困ったときにチャートを辿ると、相談窓口の連絡先に行き着くようになっていれば良いなぁ、と思うのです。
困ったときに相談にのってくれるヒトが居るのは有り難いことですけど、それが友人知人である場合に、代替療法を呼び込む可能性があるだけでなく、のめり込んでしまう切っ掛けになると思うんですよね。(後述します)

他にもこんなのは良いのでは?など、意見を自治体の担当者に伝えるとかも大切かもです。全てお役所任せじゃなくて、市民の参加も大事ですからね。

■どのように伝えると良い?
根拠に乏しい代替医療に嵌ってしまわないように・・・というのが目的にはなるのですが、嵌らないようにの説明では具体的な名称などは出すべきでは無いと私は思います。
団体名や個別の療法等を名指ししてしまうと、あの人は個人的感情や利害関係などを元に発言を行っているのでは?と誤解を招くおそれがありそうだからです。ヘタをすれば論者としての信用を失いかねませんし、当該団体と直接ではなくても接点を持っている方では反発を覚える可能性があるでしょう。
では、具体的にはどうしたらよい?私はそらパパさんが著書で述べている避けた方が良い療育法の基準が参考になると思いました。

■そらパパさんのご意見

自閉症の子どもと家族の幸せプロジェクトお父さんもがんばる!「そらまめ式」自閉症療育
p120 より
参考までに、私が考える「避けたほうがいいと思われる療育法」のシンプルな判断基準をご紹介しておきます。
自閉症が「完全に治る」と主張するもの。
自閉症と内気な性格との混同など、初歩的誤解があるもの。
・家庭のありかたや親の子育て全般を「悪者」にするもの。
・広く認められていない医療・医療まがい行為・代替療法
・秘密主義で、高額のお金を払わないと療育の全貌が見えないもの。
・子どもに罰を与えて管理することを中核に据えた療育・訓練。
・愛着、トラウマ、葛藤など、検証不能な概念に過度に頼ったもの。
・親や子どもの負担が過度に重く、挫折する可能性が高すぎるもの。

特定の団体を名指しをおこなわず、勧めてくれるヒトが優しいとか、親切であるなどの直接目に見えないような基準を取り除いております。客観的であり、手続きさえ踏めば誰でも簡単に判断のできる基準であると思います。

出産施設を選ぶ基準を同じように考えるのであれば、『抗菌薬や薬物の使用を極端に嫌う主張をする』、『母子健康手帳に記載されているアドバイスを否定するもの』、『母乳育児でなければならないと極端に勧めるもの』などが挙げられるでしょうか。

一度はじめてしまうと、引き返すためには心的負担が大きくなると思います。投資が多くなればなるほど自分の選択を疑う事は難しくなります。アヤシイ療法かどうかを見分けるような基準を予め知っておくことである程度予防できると思います。

(この話題について、どらねこのブログをはじめに目にした方がいらっしゃったの場合には、情報を色々並べて検討してくださいね。鵜呑みはしないで・・・)

■一人よりも二人、二人よりも
いくら正論(?)を聞かされたって、納得しづらい事もあるでしょうし、問題解決の代替案が無ければ少し怪しいな、と感じてももしかしたら・・・と利用してしまうかも知れません。深刻な問題を一人で抱えてしまう場合、普段は冷静なヒトでも判断がつかなくなる事もあると思うのです。子育てなどについては母親一人に責任を負わせる傾向が見られがちです、父親も一緒にこの問題を考えて欲しいと思います。一人が冷静であれば、もう一人を思いとどまらせる事が出来るかも知れませんし、思い詰めるような状況にも陥りにくいと思うのです。社会の役割も大切です。お父さんを仕事に縛り付けていませんか?自分の時は仕事を抜けられなかったからアンタもそうしなさい、というのは不毛ですよね?
もう一つ、治療法の確立されていない病気や発達障害ですが、今は無理でも将来的にはもっと良い治療法が確立するかもしれません。治療法などを見つける為には、基礎的な研究の積み重ねも大事なのです。最近は基礎研究の予算などに苦労している様子が伺えます。このような分野に投資することも直接的ではないですが、大切な援助であるとも思います。

■いったんまとめ
ゴチャゴチャしてきたので私の考えをまとめてみます。

1:危険な代替療法によって出産や育児に於いて子どもに危害を及ぼしかねない現実がある事を認識し、その事を想定した母親(両親)教室を行い、周知を図ることが大切なのではないか、ということ。
2:もし、不安に直面した場合何処に相談すればよいのか。信頼できる相談窓口を用意し、その存在が周知徹底されていること。
3:何もしないでは居られないのが普通ですので、治療法や療育法を探すのは当然の気持ちです。その場合の判断基準を事前に決めていることが望ましいと思います。判断基準は客観性があり、本人も納得できるよう固有名詞などは挙げられていないものを提供できると良いと思います。
4:ひとりに全てがのしかかってしまうような状態では例え知識を持っていたとしても冷静な判断ができなくなる可能性があります。家事を手伝うとか物理的な援助だけでなく、話をする機会を設定するなどの情報共有が大切になるとおもいます。
そして、もうひとつ・・・
5:友人知人が勧める療法等からはなるべく距離を置くことです。その全てが悪いわけではないのですが、勧められた代替療法なりが問題のあるものであった場合に非常に危険な状態になりやすいと考えるからです。

■心配な問題の件については友人知人と距離を置く
心配を抱えるヒトに対しての援助(この場合は代替療法の紹介)を申し出る場合それはたいてい善意によって行われるものでしょう。でも、善意であることは援助内容を保証するものではないばかりか、それが悪い方に働いてしまう可能性が高いと考えます。
友人知人が善意で勧めてくれた申し出は断りにくいと思います。せっかく紹介してくれたのだから、少し試してみないと申し訳ない・・・みたいな感じですね。また、善意だからというよりも今後の付き合いを考えてしまい断れないということもありそうです。
ママ友同士のおつきあいが強い場合には相当なプレッシャーになる事が予想されますが、私の経験ではママさん達もお父さんには遠慮があるようですので、間に入って対処することも断る場合には有効であると思います。
何が問題なのかというと、折角の申し出なのだから少しだけ、というのが『のめり込み』の入り口だからです。見学気分がちょっと体験してみない?になり、ちょっとした体験の筈が来週の予約になっていたり・・・。
気がつけばいつの間にか時間もお金も掛けている・・・そして、代替医療に費やした投資が大きければ大きいほど引き返すことは難しくなります。
(関連キーワード『一貫性とコミットメント』、『サンクコスト』、『認知的不協和』)

■空気を読まない
日常生活を円滑に進めるためには、所謂空気を読むことが求められるでしょう(私は軽い人格障害傾向がありますので空気に従わない事が多く、日常生活に不便を感じたり・・・)、しかし出産育児というのは生命に関わる大きなイベントであり、日常とはまた別のものであると私は思います。なので、少しの不便はあるかも知れませんが、空気を読んで配慮するような場面ではないと思うのです。ましてや、子どもの将来が関わる事でしたら、目の前の安心感よりも妥当性が高いと考えられる療育や援助を優先するべきと私は考えます。

■入り口に脚を踏み入れないことが大切
色々と書いてきましたが、関わりを極力持たない事が大切である、というのが私の意見です。如何に関わりを持たないで居られるか、です。それは関わりを持った方が抜け出すのは至難のワザという事の裏返しでもあります。
妥当性が乏しい代替医療に貴重な資源を費やさないためには兎に角予防が大切、その予防には『価値判断を極力廃した手続きを踏むことで選択肢から外す』、『友人等のススメには空気を読まない』、『一人で悩まない、悩ませない』という事が有効なんじゃないか?という事です。

周回遅れかも知れませんが、これが現時点で私ができるアドバイスです。少しでも参考になる点があれば幸いです。




【余談】
母子健康手帳に書かれている事柄を否定しないと本文中では書いたが、個人的に気になるところがある。もしかすると間違っているかも知れないので、その場合はご指摘頂けると嬉しい。
私がこのシリーズを書こうと思った直接の切っ掛けは、助産師主導の産後指導に於いて、新生児に対し必要性の高いルーチンであるビタミンK投与を行わず、代替品とはなり得ないホメオパシーのレメディ投与を行い、赤ちゃんの命が失われる結果となった事例が明るみに出たことに拠る。
これについて書かれている新聞記事やブログ等をなん件かよみましたが、その中に母子健康手帳へのビタミンK投与の有無の記載について言及されているモノがありました。
母子保健法にはその事についてこのように書かれている。

母子健康手帳
第16条 市町村は、妊娠の届出をした者に対して、母子健康手帳を交付しなければならない。2 妊産婦は、医師、歯科医師助産師又は保健師について、健康診査又は保健指導を受けたときは、その都度、母子健康手帳に必要な事項の記載を受けなければならない。乳児又は幼児の健康診査又は保健指導を受けた当該乳児又は幼児の保護者についても、同様とする。《改正》平13法1533 母子健康手帳の様式は、厚生労働省令で定める。
母子保健法より−

ところが、私の調べた範囲では厚生労働省の定める様式例にはビタミンK投与についての文章は見つけることが出来なかった。(勿論見逃しの可能性はある)

厚生(厚生労働)省が定めた母子健康手帳の様式例やその改正後の変更点など
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/01/s0115-2a.html
平成18年通知
http://www.jschild.or.jp/news/pdf/060215.pdf
平成20年通知
http://www.jschild.or.jp/news/pdf/080221.pdf

母子健康手帳は各自治体が様式に沿って作成するモノで、様式に沿っていれば自治体独自の記載をすることが可能であると考えられる。因みに、私の手元にはとある自治体の平成17年及び19年に発行された母子健康手帳はそれぞれ若干様式が変更されており、ビタミンK投与に関する記載はされていない。また、次男については私の目の前でシロップの投与が行われたが、ソレについての記載はされていない。つまり、医療機関でも記載の必要性を認識していないのでしょう。(要不要かは此処では判断しない)
しかし、自治体によっては(生後四週間まで)の項目に

生まれて1か月頃にビタミンKが欠乏することがあります。
   ビタミンKの予防投与を受けましたか。 はい いいえ

と記載している場合もあるようで、作成者の認識により記載されていたりされていなかったりする項目なのかも知れない。

長々と書いたけど、各自治体さんは母子健康手帳の内容にこの項目を設け、母親(両親)教室などでもビタミンK(K2シロップ)投与の意義を全ての妊産婦へ周知を図って貰いたいなぁ、そう思ったわけです。
同じような悲劇が二度と繰り返されないように、どうぞよろしくお願いします。