モーいちど骨粗鬆症と牛乳

今回は牛乳有害論のお話しです。
本家どらねこ日誌でも『牛乳は本当にモー毒か?』で検証をし、牛乳が骨粗鬆症のリスクになるという根拠とは謂えない論拠の不当性を指摘しました。
しかし、身の回りにはいまだ正しい話であると理解してしまっている方がいたり、ネット上でもまだまだ牛乳有害論を見かけます。

牛乳有害論はマクロビ信奉者や、昔ながらの日本食が至高であると考える方々を中心として広まったようです。例を挙げてみましょう。

胃腸は語る−胃相腸相からみた健康・長寿法 新谷弘実:弘文堂(1998)
p168
●牛乳の飲み過ぎが骨粗鬆症をつくる
また、年をとってくるとカルシウムが減って骨粗鬆症になるから牛乳を飲みなさい、というは誤りです。牛乳の飲み過ぎこそ骨粗鬆症をつくるのです。というのは、牛乳は飲むと血中のカルシウム濃度がすぐに高くなるから吸収がよいといわれるのだということは先に述べました。実際にはそのあと、反動として、余分なカルシウムといっしょに必要なカルシウムや他の栄養素までも排出してしまうことも説明しました。
<中略>
特に骨粗鬆症が多い国はアメリカです。牛乳をたくさん飲む国に骨粗鬆症が多いのは、まさにこのようなことを証明しているのではないでしょうか。ニューヨークの私の診療所には、よく背中の曲がったご婦人などが来て、「私は若いときから牛乳とかチーズをたくさんとってきたのに、どうしてこんなことになったのでしょう」といわれます。それに対して、私はいつも、「そういうのばかり食べてきたから骨粗鬆症になったんですよ」というのです。

吸収されやすいカルシウムが一気に血中に入って、その反動で・・・というのが新谷さんの説みたいですね。でも、その説の根拠となるデータが無いんですよね。まぁ、100 g中に100〜110 mg程度含まれる牛乳を飲んで、そんな変動するの?なんて、疑問も持ち上がりますが、此処は目をつぶりましょう。だって、牛乳をたくさん飲む国に骨粗鬆症が多いというのを正しいと仮定すれば、相関はあるわけですものね。
うん、次いってみましょう。

牛乳はモー毒? 真弓定夫監修 美健ガイド社
p22
それが 不思議なことに戦後 日本人の牛乳の消費量がふえるとともに骨粗鬆症のヒトも同じように増えているんだ
p31
牛乳を飲んだら骨が強くなるはずなのに
かえって弱くなるという皮肉な現象が起こっているんです

真弓センセーが大活躍の漫画からの引用でした。
真弓センセーは牛乳は牛の赤ちゃんの為の飲み物だから、人間は飲んじゃいカーン、牛乳のカルシウムは吸収できーん。だから骨粗鬆症を誘発するのだ!!と、指摘しておられます。
これも牛乳の消費量と骨粗鬆症発症率(データは示されていないが)の相関を引き合いに出しておりますね。

その他、島田彰夫さんとか、マクロビ系の講習会とかで牛乳有害論は骨粗鬆症を引き合いに出して説明されたりします。

こういう話を聞いて
「えー、そんなことないよなー」
という方向けの反論は容易いのですが
「もしかしたらあるかも・・・」
という方でも納得して頂けるような反論は難しいと思います。
そんなわけで、理屈だけでなく、妥当性のあるデータを示して、反論したいと考えておりましたところ、これは有望かな、と思われるデータを見つけたので、紹介したいと思います。

Risk Factors for Hip Fracture in a Japanese Cohort. Fujiwara S, Kasagi F, Yamada M, Kodama K.J Bone Miner Res. 1997 Jul;12(7):998-1004.

広島の約4500人をフォローアップ期間1978-1992追跡したコホート調査の結果です。骨粗鬆症の指標と成る大腿骨頸部骨折に着目して、生活習慣や飲酒、食生活、BMIなどがどのような関連を持つのかを検討したものです。(だよね?)
対象の属性はこんな感じ

此方が女性の結果

相対危険度(Relative riskとかいてあるとこ)に着目してね。
牛乳を週5日以上のむ群(Milk intake≧5/week)では、牛乳を1週間に1日以下( Milk intake≦1/week)の群に比べて、相対危険度は約半分だということがわかりますね。
相対危険度は暴露因子と疾病発生との関連の強さを示す指標なので、牛乳を毎日のように飲む事は、大腿骨頸部骨折発生を少なくするだろうと推定されるのですね。
牛乳を飲む量が増えた事と骨粗鬆症発症が増加した事に相関はみられたかも知れませんが、どうやら因果は無かったようですね。

あともうひとつ・・・

The incidence of thoracic vertebral fractures in a Japanese population, Hiroshima and Nagasaki, 1958-86.Fujiwara S, Mizuno S, Ochi Y, Sasaki H, Kodama K, Russell WJ, Hosoda Y.J Clin Epidemiol. 1991;44(10):1007-14.
こちらの論文から引用したいのですが、原本を手に入れる事が出来ませんでしたので、紹介しているこちらのページから引用させて頂きます。
医療情報サービス Minds(マインズhttp://minds.jcqhc.or.jp/stc/0046/1/0046_G0000129_0006.html
出生コホートからみた椎体骨折の発生率

広島、長崎の出生年別コホート研究で、このデータは、1958〜1986年の2年ごとに撮ったX線検査結果を基に診断した結果をまとめたもの。
出生年代の違う方達が同じ年齢に達した時点での、椎体骨折(これも骨粗鬆症が主な原因)発症を調べたものですね。見ればわかると思いますが、後の年代に産まれたヒトほど、発症の頻度は低下しているのですね。
つまり・・・
昔の所謂粗食を食べていた期間が長いヒトほど、椎体骨折の発症リスクが高い事が推察されます。

これらのデータにより、牛乳有害論を喧伝する方達が謂うように、所謂欧米食や牛乳を飲むように成った事が、骨粗鬆症の発生を高めているとは全く謂えません。そればかりか、食生活の変化は、骨粗鬆症のリスクを低下させている事が示唆される、のです。

大正から昭和初期にはビタミンD不足などによるくる病が現在よりも高頻度で発症していたと、公衆栄養の本に記載されているほどで、骨の形成が十分でないヒトが多かったと考えられています。
昔ながらの良い部分を受け継ぐのは大切だとは思いますが、悪い点は改めるのが賢いやり方だと思います。
伝統の・・・という聞こえの良いことばに騙されて、健康を害する方が少しでも減って下されば・・・これがどらねこの願いです。