いやしあやかしまやかし

代替医療のトリック』著:サイモン・シン、エツァート・エルンスト 訳:青木薫を読み終わった。

書評を書くつもりでいたのだけど、完全に出遅れ。鋭くて分かり易くて、面白い書評(此処とか)が幾つか挙がっていたので、今更感ありあり。
書評はや〜めた!読書感想文というか、栞にメモ貼ったようなものにしよう。欲張った事を言えば、同じく本を読んだ方が、「へぇ、コイツはこんな事考えながら読んでいたんだ、なるほどなぁ」とか、「オイオイ、それは違うだろ!」というように思ってくれたら嬉しいな。

●『代替医療のトリック』という本に対する感想●
代表的な代替医療に対し、根拠に基づいた医療の根拠として認められるような効果の検証方法を適用した場合、どのような判断が下されるのか。コレが本書のキモでしょうね。
作用機序は不明であっても、効果が認められる治療法であれば、その治療法が否定されるモノではありません。次は、費用対効果や副反応となどを考慮に入れて、実際の治療法として有用なモノであるかどうかの判断になるわけね。
効くか効かないのかを科学的にどうやって判断するのか、その説明を最重点項目に置いて本書は構成されて居るようだ。全6章のうち、第1章を丸々つかって、検証方法に説明を費やしているが、代表的代替療法を個別に論じた2〜5章でも、その方法論が具体例を示しながら説明されている。いや、寧ろ個別事例は検証方法を理解して貰う為に用意されたツールなのかも知れない。いきなり検証方法の説明文がダラダラ続くばかりでは、本を途中で置いてしまったり、理解が不十分のまま先に進んでしまう可能性があるからだ。興味深い分野を実例として、検証方法の実際を学んで貰いたい、もちろんその検証の結果はちゃんと報告されているので一石二鳥だ。4つの個別事例をきちんと読み込めば、巻末付録に示した代替療法への評価の妥当性や、採り上げられなかったモノについても、判断基準を持つことができるはずだからだ。
なんとまぁ、巧妙なこと。しかも面白いし・・・
これは間違いなくお勧め出来る本です。断言します!!(根拠無し)

※以下ネタバレ有りの個人の感想が羅列されたモノになります。本を読みながらその時に書き取ったメモを整理したモノです。お見苦しい点もあるかと思いますのでご注意下さい※

p19
瀉血とは、皮膚に刃物を当てて血管を切開するという奇妙な治療法で、かつてはあらゆる病気を治す方法として広く行われていた。


臨床試験により、その効果は否定された後も、しばらく行われ続けたようだ。ジョージ・ワシントンの死因として疑われていたとは知らなかったねぇ。19世紀の中頃まで盛んに行われていたというのだから、所謂西洋医学なんて呼び名にどんな意味があるんだろうねぇ、と思う。
p42にも書いてあるけど、瀉血は理論的にも完全に否定されているけど、新しい根拠が得られたなら以前の結論は覆るものだ、それがEBMだと述べている。その例として、心不全による体液過剰を緩和すために瀉血が行われる事もあるという例を示してる。あと、思いつくのはC型肝炎の補助療法かな。C型肝炎による鉄過剰は肝細胞の破壊を進めてしまう事があるから、ヘモグロビン除去の意味合いでインターフェロン不適な方に瀉血が行われることがある。2006年に保険適用されたのは記憶に新しいよね。

■科学的検証法について、柑橘類と壊血病治療の話を例にしたもの

p32
レモンが壊血病の症状を緩和したとの報告が数件あったものの、十八世紀半ばの医師にとって、果物を与えるというのは奇妙な治療法だった。もしもリンドの時代に「代替医療」という言葉があったなら、当時の医師たちは、オレンジとレモンを食べさせるという彼の治療法に、代替医療のレッテルを貼ったかもしれない。


あ〜、そうなんだよね。その後正統医療だけでなく、代替医療と呼ばれるような伝統的な治療法だったり、新しく見つかった概念などを採り入れながら、今で謂う現代医療が作られてきたんだよね。検証を経て有効性が認められた(ようにみえる)ものを集めて診断治療の基礎が確立されていった。ヨーロッパやアメリカだけの発見だけじゃなくて、世界各地で発見された知識の蓄積から成り立っているんだよね。
RCTという手法が採り入れられ始めた頃には代替医療の鉱脈には貴金属がゴロゴロしてたんだろうな。で、だいたい掘り尽くして、残りは現在の代替医療に留まってる。その鉱脈には今でも分離が困難なレアメタルが埋まっている可能性が勿論あるんだよね。

■p78〜プラセボの威力:いや、予想以上に強力な効果をもたらすことがあるんだねぇ、知らなかったよ。そこまでとはおもわなかった。

p85
プラセボ効果は、不眠症、吐き気、抑鬱症状をはじめ、実にさまざまな症状に影響を及ぼす事がわかっている。実際科学者たちは、プラセボ効果によって、身体にまぎれもない生理化学的変化が起こることを確かめた。

条件付け反応説とか期待説などがあるのかぁ、でも、まだ確実なことは謂えないと・・・ふーん。動物でも似たような機構を持って居るみたいというのが面白いなぁ、と思った。進化とかと絡めてかんがえても面白そうだけど、自分には無理だな。

■p88〜盲検法と二重盲検法鍼を検証する章なのだけど、大きくスペースを割いて説明してる。鍼と謂いつつ、作者はこっちを理解して貰いたいという気持ちが出てる?どうでも良いが、日本語入力の変換第一候補が二獣猛犬咆というになってしまっているというのは、お遊びが過ぎたと思う、反省。

■p99 WHOの鍼に対する評価についての反論:読者がこの説明を読んで納得できるか否か?この本を読む前に読んでいた方が良い本があるよなぁ、そう思った。だって初めてコレ関連の本を読む、代替医療従事者って居るだろうからね。

鍼の章を読み終わって:結論に対して納得できないヒトというのはどんな事を呟くのかなぁ、なんて感じた。実際に鍼やっている方のこの本に対する意見もチラッと見たけど、う〜ん。となってしまった。鍼は二重盲検法を実施できないから評価は無理だとか、本場の鍼は違う、達人は違うというような意見と出会ったからね。あと、100%心理効果でも一向に構わないと仰る方もいらっしゃった。でも、本場の鍼は違うんだぞというのは通用しないよね。この本はあくまでイギリスのヒト向けに書かれて居るんだろうけど、第一章を中心に述べている検証方法を適用すれば、本場の治療法を研究するヒトがその療法の効果測定を行う事が出来るわけだ。その方法をつかって、達人の治療を普通の施術者(?)の治療と比較検討してみればよいのだから。100%心理効果で構わないと仰るヒトはもっと理解できない。心理効果で治療が達成されるのであれば、自然と侵襲的治療法から非侵襲的治療法に移行すると考えられるからだ。それを試さずそんな事謂うのは誠実じゃないね、と誠実ではないネコがほざいてみる。

■第3章 ホメオパシーなんかもうお腹いっぱいという感じ。鍼に比べると体に対する相互作用というのは無いに等しいモノだから。p155の『ネイチャー』にIgE抗体を含まない液体がヒトの好塩基球の脱顆粒を引き起こすという論文を掲載された話は知らなかった。研究者が目隠しされて居ない状態での実験操作というモノは如何に当てにならないか、この例はその事をおしえてくれますね。よく考えたら自分にも経験があった。培養細胞の増殖抑制効果を見るとき、とりあえず顕微鏡を覗いてみたら、増えて欲しくないdishの細胞が少なく見えたのね。おっやった!と、思って、染色液つかって吸光度測って確認したら同じだったのね。ウソのデータにならないよう、気をつけなきゃいけないことはいっぱいあるんだなぁ、と思ったときだった。

p165
たとえばNMRを用いたある実験では、普通の水とホメオパシー・レメディの分子間に違いを検出したと主張されたが、結局、その違いは装置の問題から生じていたことがわかった。そのNMR実験では、ソーダガラスでできた試験管が用いられていたのだが、ソーダガラスはガラスの中でも安定性が低く、ホメオパシー溶液からは純水とは異なるNMRグラフが生じ、ホメオパシー溶液は水の記憶を示しているかのようにみえたのだ。

 
うへぇ、NMRもつかって検証したモノもあったんだ、この点は鍼よりも検討されているのかも。しかし、どんだけ激しく震盪してるんだか・・・

■p171〜メタアナリシス:ホメの事例を通すと分かり易いなぁ。2005年にシャンがランセットに発表した論文に対してホメ側の訴えた反論が虚しいことがよく分かる。メタ・アナリシスの方法を事前に明らかにしているという点は素晴らしい。後出しじゃんけんじゃない!!

第4章 カイロプラクティック日本と違う現状なのか。X線使うんだ、知らなかった。本書では僅かな効果はあるが、危険性も有ることを紹介してた。本題とはずれるけど、p193の科学的根拠にもとづくお茶の話は怖いなぁ。運動と消化の関係を見るために斬り殺された騎士はたまったもんじゃない。こえ〜。事故でお腹に穴があいて貫通しちゃったヒトを使って消化の研究がされたという話もあったなぁ。

p241−242
予防接種に反対の立場は、ホメオパスに限らず、他の代替療法のセラピストにも共通している。
エルンストとシュミットは、ホメオパスに対する調査と平衡して、カイロプラクターにも電子メールを送り、予防接種について同様のアドバイスを求めた。二十二件の返事があったが、自分の返事が学術研究に利用されることを知って降りた者が六名いた。残る十六の返事のうち、子供に予防接種を受けさせるようアドバイスしたカイロプラクターは四名(二十五パーセント)にとどまった。

その前のホメオパス達への調査ではもっと低かったけど、カイロプラクターも否定的だとは思わなかった。マクロビもそうだけど、このような傾向を持つ事は大変危険であると思うし、その点だけでも、代替医療が広まる事に対しての大きな懸念と成りうるのだよなぁ。

第5章 ハーブ療法:ハーブ療法は前にも書いた鉱山アナロジーがよく似合うとおもう。既知の鉱山から新たな鉱脈を見つけるようなモノかも。ハーブは原石のようなもので、そのままでも有用な場合もあるけど、そーいったものは少ない。でも、可能性もある。磨いたモノが通常医療に多く用いられる。
p277にはがん治療に効果があるとして、『レートリル』というものが広まった経緯が書かれている。勿論効果は確認できていない。なんか聞き覚えがあったと思ったら、コレ、ビタミンB17という名前で紹介されていた事が有ったんだよね。食養系の医師『河内省一』氏を紹介したことがあったけど、彼の本にもレートリルが載っていて、効果があると喧伝してた。ホント、トンデモ同士はひかれ合うよなぁ。
p283にはレイキがでてきた。桜沢如一の妻である里真はレイキの実践者だったんだよなぁ。

p301
自慢げに人に教えたことや、人生のいしずえとしてきたことが、間違いだったと認めなければならないような事態になれば、たいがいの人は−こみいった問題をやすやすと理解できる人まで含めて−明々白々たる事実さえ認められないものだ。

コレもホントにその通り。自分みたいな阿呆が理解できることが、なんでこんなアタマイイヒトが理解できないのかしら、と思うことしばしば。ゼンメルワイスさんも周囲の医師達のこの態度に苦しめられたのですよねぇ。

第6章 真実は重要か?:プラセボ効果を利用することの倫理的問題については、議論が分かれるところだろうなぁ。TAKESANさんは容認しないという立ち位置でいらっしゃるけど、NATROMさんは容認できるという立ち位置でいらっしゃるみたいに。自分はどーなんだろう?
『終の棲家に於いて、安心感を提供する場合に限り、家族の同意が有る場合についてのみ認めても良いのではないかと思ってる。但し、提供する場合は実費のみ頂くという制約が有った方がよいと思う。』

■p322からは『効果が証明されていない、または反証された医療を広めた責任者トップテン』を紹介している。追求の手をゆるめない姿勢に拍手。
その一つとしてセレブリティが初めに紹介されている。個人的にはマクロビとマドンナだよなぁ、やっぱり。新谷弘実氏の著書には彼を褒め称える有名人のコラムがずらりと並んでいたのを思い出した。海部俊樹中曽根康弘、渡邉恒夫、江崎玲於奈野村克也・・・
セレブリティの他、医療研究者、大学、代替医療の導師たち、メディア、メディア(ふたたび)、医師、代替医療の協会、政府と規制担当局、そして最後に世界保健機関(WHO)と並んでいる。
これら名前が挙がった方々には、是非、この本で紹介された検証法を以て評価を行い、その結果を真摯に受け止めて貰いたい、心からそう思った。