牛乳は本当にモー毒か?

牛乳は本当にモー毒か??
※この記事は昔どらねこ日誌というブログに掲載したものをほぼそのままの文章で再アップしたものです。今のどらねこだったら書かないようなものや文字の体裁など色々と変な部分がありますので、取り扱いにはどうぞ注意して下さい。

まえがき
真弓定夫先生監修の食育冊子シリーズを何度か採りあげてきました。
近頃、そのトンデモっぷりを楽しむエントリーがはやりですが、その流れに乗らず、真剣に向かい合ってみたいと思いました。
検索をかけてみると、信奉者のページが多数ヒットします。どこかでこの話を聞いた人が、それを読んで、「ああ、やっぱり正しかったのだ」そんな事になっては大変です。
肯定、否定両者の意見を横に並べ、判断していただきたいのです。
そんな記事を目指してのエントリーです

さて、何から始めましょう。

今回は、牛乳の悪い面を考えてみました。
なるべく公平っぽくですからね。
いっちゃなんだけど、牛乳推進派の方も極端な事を結構言っているからトンデモ屋さんに付けいる隙を与えているような気もするのです。
例えば、「神様がくれた完全食品」なんて、キャッチコピーとか、カルシウムが不足するとイライラするから、牛乳で補給しよう、そんな話の事です。
血中カルシウム濃度が下がらない限り、精神状態に影響を及ぼすことは考えにくいんですけどね。

【牛乳の脂質】
牛乳の脂肪酸組成は、飽和脂肪酸が多く、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸と続きます。
牛乳や食肉ばかり食べていると、脂肪酸摂取割合が偏ってしまいます。
その結果、人によっては動脈硬化のリスクファクターになるのです。
また、牛などの反芻動物の消化を助ける微生物のなかには草を分解して、トランス脂肪酸を作るものがおります。
牛は、そのトランス脂肪酸を栄養分として吸収するため、その肉や乳にはトランス脂肪酸が比較的多く含まれます。
だいたい、脂肪分の2〜3%ぐらいでしょうか。
このトランス脂肪酸が、LDL増加のリスクファクターであるとして、アメリカで注目されているのでした。

以上のことから考えると、乳脂肪は毒なのでしょうか?
どらねこの答えは、毒にもなると言えそうです。

牛乳100 gあたりのトランス脂肪酸は多く見積もっても、0.1 g程度です。
1日に牛乳300 g飲んだとしても、トランス脂肪酸0.3 gです。
WHOでは、全エネルギーに占める割合を1%未満にすることを推奨しておりますが、1日2000 kcalを摂取する人を仮定すると、20 kcal未満に抑えようと言うわけです。

20÷9 で約2.2gですね。

極端に牛肉や牛乳、マーガリンや、市販のクッキーばかり食べている人でなければ達成できない数字です。
しかし、牛乳は体に良いから、1リットル飲むよ、なんて言うスポーツ少年をたまに見かけますので、そういった人はちょっと心配ではありますね。
バターたっぷりシチューに、コンビーフサンド、美味しそうだと感じてしまうどらねこも気をつけなければいけない?
どんな食べ物でも、食べ過ぎは良くないよね。
油断すると食べ過ぎになりやすい食品だよ、そこを強調しておきます。

【乳糖】
乳糖不耐症は難しそうな用語だけど、一般にも結構知られています。
牛乳を飲むとおなかがゴロゴロするというアレです。
しかし、実害は大したことがない場合が多く、おなかが緩くなる程度の軽い人が殆どです。ひどい下痢をするぐらいラクターゼ(乳糖分解酵素)分泌が無い人は無理して飲まなければ良いのです。
また、多くの人は習慣的にのむことでラクターゼ活性も高まってくるようです。
本当に毒になるのはガラクトース血症(遺伝性のガラクトース代謝酵素欠損)の人についてです。
この場合、多量摂取で白内障になることも実際にあり得るのです。
しかし、数万人に一人という発症率であり、多くの人にとって毒とはいえませんね。

今までの話から導き出せることは以下の3つです。

大量に飲めば健康を害する虞がある
トランス脂肪酸摂取量には気をつける必要がある
ガラクトース血症やラクターゼ欠損の人には有害である

他には、牛乳中の女性ホルモン問題がありますが、その影響が明確ではなく、市販牛乳のエストロゲン濃度を考えても、ぜったいに無いとは言い切れないレベルの話です。
このような話は他の食品にも見られます、だから同じ食べものばかりではなく、いろんなものを食べてリスク分散するのが勧められているわけですね。
牛乳はダメで大豆イソフラボンはOKなの?
そんなこと無いでしょう。

終わりに
あくまでどらねこの主観ですが、牛乳はそんなに悪い食品には思えません。
いろいろ探したつもりですが、これ以上は見つけられませんでした。
次回はいよいよ、牛乳はモー毒?に真っ正面から突っ込みたいと思います。
こうご期待!


牛乳は本当にモー毒か?その2
第2回目は冊子のトンデモ言説に対し、突っ込んでいきます。

今回は努めて冷静に簡潔な文章になる事を目標としました。

言い足り無かったり、伝わりにくい部分もあると思うので、そこらへんは?でフォローしていきます。
ストーリーを追いながら、すぐさま突っ込んでみるやり方です。
赤字がつっこみ、反論にあたります。

では、はじまりはじまり・・・
物語は、以前紹介した37℃の不思議と同じような展開で推移します。

主人公のお母さんが、スーパーマーケットで牛乳は体が悪いらしいと、お友達から聞くところから始まります。

そして、わからないことは「真弓先生に聞こう!」
となって、真弓官兵衛先生登場。

ママ「官兵衛先生、牛乳が体に悪いって本当ですか?
官兵衛「うーむ、それに答える前にこちらから質問です」
官兵衛「もし、世の中の牛乳が明日から全部、ネズミのお乳に変わったらどうしますか?」

ネズミ→汚い、不衛生 現代日本人のかなりの程度で共通した認識である。
ネズミの乳汁分泌量では人間の飲用として需要を満たすことが難しい。
上記の理由により、乳牛の引き合いに出す例としてネズミは不適当である。

そんなこんなで、昔の日本人は牛乳を飲まなかったよ、タイムマシーンで確認してね。
ふーん、なるほど。
あ、牛乳飲んでいるよ。昭和22年頃からだね。

主人公「官兵衛先生、ほら牛乳にはカルシウムがあるから身体にいいんでしょ?」
官兵衛「それが、不思議なことに戦後、日本人の牛乳消費量が増えるとともに骨粗鬆症の人も同じように増えているんだ」

そうなんです。
それと同じように寿命も増加しています。
因みに、骨粗鬆症は圧倒的に高齢者に多い状態です。
高齢者に多い、すなわち、高齢者が多くなると骨粗鬆症の人は増えるのですね。

主人公「骨粗鬆症ってなあに?」
クラスメート「骨がスカスカになって弱くなってしまう病気よ、主にカルシウム不足によって起きるのよ」
「おかしいわ!牛乳はカルシウムを摂るために飲むものなのに?」

牛乳は食品であり、嗜好品でもあります。
カルシウムを摂る目的で無理に飲んでいる人もいると思いますが、カルシウム以外にも有用な成分は含まれています。
トランス脂肪酸飽和脂肪酸の摂りすぎにさえ気をつければ、糖尿病の方にもおすすめできる食材です。

さあ、今度は口の中だよ。
答えが見つけよう。

官兵衛「日本人の腸には牛乳のカルシウムを吸収するために必要なラクターゼという酵素が少ないのです。この酵素は大人になると不足して、折角牛乳をのんでもカルシウムはほとんど排泄されてしまうのです」

牛乳200gの乳糖は9g程度です。ラクターゼ活性が全く無い人ならともかく、ある程度の活性のある人ならば問題とならない量と言えます。(乳糖負荷試験20gの半量以下ですね)
ラクターゼが牛乳のカルシウムを分解するためのものという文章も変です。
ラクターゼはあくまでも、ラクトースという2糖類を単糖類に分解する酵素です。
乳糖は牛乳のカルシウム吸収を促進しますが、乳糖が吸収されないとなるとこの効果が期待できないことから、吸収率が低下するという表現が妥当だと言えます。

真弓先生の暴走は続きます

官兵衛「世界で一番牛乳を飲んでいる国はノルウェーなんです。ところが、そのノルウェー骨粗鬆症の発生率はなんと日本の5倍!!なんです」

まず、ノルウェーは世界で一番牛乳を飲んでいる国ではありません。
フィンランドデンマーク、オランダ、スウェーデンといった国が常に上位に位置しております。
次に、骨粗鬆症5倍の件ですが、このようなデータは見つけられません。
大腿骨頸部骨折の発症率とすり替えていませんか?
そうであったとしても、生活スタイルや生活環境が全く違う国で起きている現象に対し、牛乳摂取量という一つの要素に問題の原因を帰結すること自体がナンセンスです。
因みに、骨粗鬆症予防と治療ガイドライン2006年度版では、1100万人の日本人が骨粗鬆症であると推定されております。
これは、実に人口の9%です。「牛乳はモー毒?」説が正しいとすれば、これを5倍した45%のノルウェー人が骨粗鬆症だということになります。

さあ、牛乳は骨粗鬆症を引き起こすと言われた主人公一行。
じゃあ、どうしたらよいの?
真弓先生に詰め寄ります。

官兵衛「実は、野菜や海草にはカルシウムが牛乳よりも沢山含まれているんです」
「牛乳100gの中にはカルシウムが110mg含まれています、これが大根の葉っぱだと260mg、2倍以上になります」

小松菜 2.5倍
こんぶ   6.5倍
切干大根   5倍
わかめ 7倍
ひじき    14倍


この場合、一回の食事で容易に食べることの出来る量に含まれているカルシウム量を示すべきです。
栄養士養成施設で働いていたときの事を思い出しますね。小松菜やカルシウムばっかりの献立を考える学生の多いこと・・・
ちょっとひどい例ですがこんなのはいかがでしょう。
CaCO3(炭酸カルシウム)100 gにはなんと40000 mgのカルシウムが含まれているのです。これはなんと、牛乳の360倍!!(アホクサ・・・)

こうしてみると、根拠のいい加減な事ばかりを自信満々に放言していることがわかりますね。
牛乳は万能食品ではありませんが、もちろんモー毒なんかでもありません。
今日はこの辺で・・・

牛乳は本当にモー毒か?その3
第3回目は過激な偏った意見として読んで頂ければ・・・

今回も二匹のネコが登場します

どらねこ(以下ど)「今日はどんな感じで話を進めようか?」
コネコ(以下コ)「実は友達のかかりつけの先生がトンデモ健康法の信奉者らしいんだ。その先生の所に突入して、問題点を指摘してみようかと思っている」
「それは楽しそうですね」
「そんじゃ、行ってくるよ」
「えっ、一緒に行かないの?」
「これから荷物が届くから、ママに留守番しているように言われていたでしょ」
「え〜、ひどーい。おいてかないで!」

早速コネコはトンデモだとウワサのオカダ小児科医院に訪れました。

「ウワサ以上の所だな・・・『身土不二』『天照大神』の掛け軸かぁ」
オカダ(以下オ)「いらっしゃい、どこか悪いのかい?」「オカダ先生、コンニチワ。トラジロウ君から聞いたのですが、牛乳は身体に悪いって本当ですか?」
「うむ、その前にこちらから質問です」
「もし、世の中の牛乳が明日から全部ネズミのお乳に変わったらどうしますか?」
「質問に質問で返すのはとっても申し訳ないのですが、何でネズミなの?同じ家畜を引き合いに出すならわかるのだけど・・・僕だったら豚のお乳にするのになぁ。その方が詭弁っぽくないし」
(このガキィィ)「いや、話を分かり易くするためのたとえのつもりだったんだけどね」
「私の子供の頃には誰も牛乳を飲んでいなかったんだ。そして、子供は病院でなくて、自分の家で出産していたんだよ」
「そうですね。周産期死亡率が高かった事の一因ですね」
(こいつぅ、なぐってやろうか?)「その頃の赤ちゃんは母乳だけで育ったんです」
「母乳が出るお母さんなら母乳で育てることはとても大事なことだと思います」

「戦後まもなく経って、アメリカの援助で給食に牛乳や脱脂粉乳が導入されたんだ。ところが、不思議なことに戦後日本人の牛乳消費量が増えるとともに、骨粗鬆症の人も同じように増えているんだ」
(ハイハイ、もうその話はいいよ)
「何か言いましたか?」
「イエ、何も」
「実は牛乳のカルシウムは多くの日本人は吸収できないんだ。ラクターゼという酵素は大人になると不足して、牛乳のカルシウムは排出されてしまうんだね」
「ではどうやってカルシウムを補給したらいいの?」
「フフフ、草食動物は身体が大きいよね。でも、彼らは草しか食べていないんだ」
「つまり、草を食べていれば丈夫な身体が出来るということですか」
「そうなんだ!小松菜には牛乳の1.5倍、切り干し大根には5倍、昆布には6.5倍のカルシウムが含まれているんだ」
「でも、草食動物は体内に共生している細菌の作用でセルロースを利用できるけど、人間は反芻動物じゃないし、盲腸も形ばかりだから植物から効率よく栄養素を取り出すことが苦手だと思うんだけどなぁ、ラクターゼが無いのとセルラーゼが無いのとどう違うんだろ」
「日本人は腸が超長いから大丈夫なんだよ」
「腸って大腸の事、それとも小腸のこと?小腸でも回腸の終わりに近いところにしか細菌叢は無いとおもうんだけど・・・」
「・・・」
「で、他にも牛乳に悪いところがあるんでしょ」
「あっあとはね、脳血管障害、ガン、心臓病の発症原因です」
「ふ〜ん、じゃあ牛乳を飲む習慣の有無が骨粗鬆症の発症に与える影響を調べたコホート研究の結果*1があるのですね?」
「・・・」
「ホラ、先生次は」
「他にはアレルギー疾患、糖尿病、自閉症など戦前にはほとんど無かった病気が激増したんだ」
自閉症は先天性の障害だよね。因みに、戦前に自閉症の診断基準ってあったのかしら?」
「原因として疑われていると言うことで・・・」

「先生、次は血管の事でしょ」
「ああ・・・アテローム硬化がおこって血管が詰まるのも牛乳が原因の一つなんだ。この病気は動物性脂質、特にコレステロール摂取量の多い現代人の食生活によって引き起こされている・・・のでしょうか?」
「血中脂質の問題は脂質よりも糖質摂取量の方が影響が強いらしいですよ。先生、牛乳を問題にするのであれば、飽和脂肪酸の割合とトランス脂肪酸話で攻めなきゃ」
「ええ、うん」
「加工乳の話は?」
低脂肪乳や脱脂乳を作っているのは、牛乳の脂肪が悪いことの証明です。生命の根源である食べものを調整したり加工すること自体が牛乳が日本人の食べものとして不的確であるという証拠!!・・・だと思いたいのだけど・・・いい?」
「切り干し大根は加工品だよ(ぼそ)因みに脱脂乳や低脂肪乳はバターや生クリーム製造の時に残った成分の有効利用と考えた方が自然だよ」
「えっと、こんな話もあるんだけど」

1986年、東京医科大学の松延正之先生過去に行われた実験結果を報告しています。
牛乳を滅菌的にとって牛の子供に静脈注射をすると死なないが、人乳を子供に注射したら牛の子供は死んでしまった。


「へぇ〜」
「人乳を滅菌的にとって、人間の赤ちゃんに静脈注射しても死なないわけです。でも、牛乳を人間の赤ちゃんに静脈注射したら死んでしまうと云うことです」
「松延先生が行った実験なんですか?」
「えっと、過去に行われた実験を報告されたものだそうです」
「いつ誰によって行われたのかなぁ、少なくともpubmedでは松延先生の論文はヒットしなかったけどなぁ」
「あと、死なないときの手技だけ、滅菌という言葉が使われているのが気になるんだけどなぁ。万が一僕に注射することがあれば、しっかりと目の細かいフィルターで滅菌をしてね!」
「とにかく危険なんです!!」
「他にももっと心配なことがあるんだ。最近、子供や若者は切れやすいと良く聞くけれど、若者の異常行動や凶悪犯罪が増えていることと牛乳の過剰摂取には因果関係があると確信している・・・つもりだったんだけど、どう?」
「先生。犯罪白書を読んだことがありますか?近年は若者による凶悪犯罪は減り続けてるんですよ。人間はいつの時代においても『近頃の若いモンは』そう言い続けているみたいダヨ」

「最後は目の話を聞きたいなぁ」
「牛乳は目にも影響を与えているのです。牛乳やヨーグルトのガラクトースが水晶体に沈着して白内障の原因となるのです」
「本当にそう言い切っちゃっていいの?」
「知り合いの大学の先生がそういっていたから・・・」
白内障が発生するのはガラクトース血症という先天性の酵素欠損症の方ですよ。多くの人は問題ないはずです。ネズミの実験で白内障が発生されたとしているものも、体重1kg当たり300g以上のヨーグルトを1日に与えたものだそうですよ。僕は1日に何kgものヨーグルトは食べたくないなぁ」
「先生も無理です・・・」

「オカダ先生、今日は楽しかったよ。また来マース」

「もう来ないで〜」

*1:日本人を対象としたコホート調査では、牛乳を飲む習慣のある人は、骨粗鬆症の指標となる骨折の相対危険度を低下させる事が明らかになっている。日本人を対象としたコホート調査では、牛乳を飲む習慣のある人は、骨粗鬆症の指標となる骨折の相対危険度を低下させる事が明らかになっている。を含むブックマーク 日本人を対象としたコホート調査では、牛乳を飲む習慣のある人は、骨粗鬆症の指標となる骨折の相対危険度を低下させる事が明らかになっている。別記事にて紹介してます。http://d.hatena.ne.jp/doramao/20100508/1273295373